私とカードの間の世界

福岡の占い師Suiの探求

1.魔術師-THE MAGICIAN-

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端正な若者、という設定なので描くのに苦労しました。

確実な自信、余裕がある佇まい。

引き締まった体格でまっすぐ立っています。

周りを囲む薔薇やユリたちは彼を祝福し、これから始まる華やかなステージを飾ります。

魔術師はMAGICIANとなっていますが、手品というよりは魔法を使って観客を楽しませる人です。

彼はステージに立って、まさにこれからショウを始めるところです。理想的な緊張とリラックスのバランスです。

テーブルの上にはこれから披露する魔術に必要な材料が全て揃っています。足りないものは何もありません。

扱い方、手順も全て熟知しています。準備万端なのです。

「失敗するかもしれない」とか「恥をかくかもしれない」という不安は微塵もありません。

それは、失敗しないように鍛錬を重ねてきたからだし、万が一失敗してもフォロー出来るくらいリスク管理もバッチリです。

観客も満席です。

これから自分が繰り広げることによって人々が歓喜する事を知っているので、始める前からすでに少し微笑んでいるようです。

 

彼が愚者だったころは、やりたい事が分からない、自分の能力を知らない、世の中の仕組みを知らない、という状態でしたが、それからがむしゃらに何でもやってみた甲斐あって、今はそれらを知っています。

右も左も分からなかった愚者の頃から10年くらい経ち下積みをして、自分の立つべきステージを見つけ、ようやくそこに立てたのです。

愚者の頃はいわば思春期っぽさがあるので、自立したいけど自立とは何か分からない、それによる苦しみや迷いみたいなのもありました。

しかし魔術師の彼は自立を掴み取りました。

彼が立つステージは親や先生が準備したものではありません。自分で見つけてきたものです。

これから始める事に全部自分で責任をとる覚悟が決まっています。だからこその余裕です。

 

占いをしててこのカードが出るときは、才能を持っているのに引っ込み思案になっている人の背中を押すようなタイミングで登場する事が多いように思います。

真面目な人ほど「まだまだ勉強不足だから」とか「自分にはそれほどの器はない」と謙遜しすぎて宝の持ち腐れをしてしまいがちです。

宝を持っているのなら、腐らせないようにする義務がある、とも言えると思います。

 

あと個人的に「仕事とは何か」というテーマを強く感じます。

彼は才能豊かだし、大変努力してここまで技術を高めてきました。

その大事な能力を、我欲のために使おうとすればいくらでもそう出来るはずです。

しかしそうではなく、彼は人々に喜んでもらうためにその力を使おうとしています。

彼が観客を集めてステージに立つのは自己顕示欲からではありません。

 

「仕事」って現代では何だか分かりづらい部分があります。

私はまんが日本昔ばなしを見るのが好きなのですが、昔ばなしの世界では「仕事」って一目瞭然です。

まず自分の畑を耕さないと自分が食べれません。生きていけません。そしてみんなが生活に必要ないろんなこと、「一服できる団子屋」「鍛冶屋」「漁師」など専門じゃないと出来ないけどみんなに必要なものがあって、それを金銭で交換しあってます。

自分が生きる為に必要なこと、そして自分以外の人の為に必要なことをすると物や金銭が循環して社会が作られていく。

自分を生かす事でみんなが生かされていく。

それが本来の「仕事」なのでしょう。

 

魔術師も、自分の魔術の能力に気付いたときは、こんなものがいったい何になるのか分からず困惑したかもしれません。

親を安心させるには魔術師なんかじゃなく公務員になった方が良いんじゃないか…など悩んだ事もあったでしょう。

しかしこれが自分の才能なんだと受け入れて、人々に楽しんでもらう為にと腹をくくって鍛錬を重ねて、ついにステージに立ちました。

彼は今、生まれて初めて「社会と自分が繋がった」という感覚を知りました。

それと同時に今までの人生は序章だったと知ります。

これから彼の物語の第一章の幕開けなのです。